心に残る食事:Thanksgiving Day -感謝祭-

2015年11月26日 10:18

こんにちは、三郷町ふるさと活性化協力隊のmeganeです。

 

晩秋に入り、紅葉も終わりに近づいてきました。木枯らしが吹く11月末は私にとって忘れられない味の記憶があります。

 

アメリカでは毎年11月の第4木曜日にThanksgiving Day(サンクスギビングデー:感謝祭の日)という祝日があります。(カナダでは10月の第2月曜日)1620年、イギリスのピューリタン達(清教徒クリスチャン)がマサチューセッツ州のプリマス植民地に移住し、持参した農作物を新しい土地で育てるのに大変苦労していた所をアメリカン・インディアンに生きる術を伝授してもらい、助けられたお礼に1621年収穫を記念する行事としてサンクスギビングデー<が始まったと言われています。1863年にはリンカーン大統領が南北戦争で分裂ししまった家族や夫を亡くした未亡人達をサポートし国家としての団結を戻すため、サンクスギビングデーを正式に毎年11月の最終木曜日を祝日としました。また、1939年にはF.ルーザベルト大統領が祝日を第4木曜日に決定する議案を通しました。1

画像参照: "History of Thanksgiving" History.com

 

そんな風習がある国に、私が小学2年生の頃父の仕事のため一家で移住しました。アルファベットもわからないまま飛び込むしかなかったアメリカの生活は、何かと沢山のハードルがありました。言葉のハードル、文化のハードル、差別のハードルなどなど、経験して初めてわかる海外暮らしの難しさ。私と妹はまだ若かったため比較的早くアメリカの生活に順応することができましたが、父が帰国した後も私たち子どもをバイリングアルに育てるため滞在期間を伸ばした母にとってどのような苦労があったのか、国内外に子育てしている知り合いが増えている今、考えられずにはいられません。

 

さて、アメリカに移住したての頃にサンクスギビングデーがやってきました。私の初めてのサンクスギビングは父の上司のホーム・パーティーにて行われました。欧米では仕事とプライベートの時間を白黒とはっきりわけます。パーティーは毎週末といっても過言でないほど頻繁にどこかの知り合いの家で行われるのですが、その時集まるのは大抵個人的な付き合いがある仲間たち。職場で友人がいる、というのはよっぽど一緒に時間を過ごす仲間でない限りあまりありません。そのため、仲の良い友人や親せき以外に職場の仲間などをプライベートな自宅パーティーに呼ぶのは年に数回しかない、貴重な時間なのです。そこから仕事仲間以上の仲になるのか、ならないのか、来年も呼ばれるのかなどは会話の内容や楽しみ方によりその先の人間関係を左右します。

 

そんなことを全く知らず私と妹は最低限の英語でとりあえず挨拶をし、案内された先はダイニングルームという、特別なイベントがある時のみ使用される食事専用の部屋の、テーブルいっぱいに並ぶ沢山の見たこともない料理の山でした。サラダや野菜のオーブン料理、シカの肉やクランベリーソース、色々なポテト料理やグラタン、コーンブレッド(トウモロコシ粉で作るビスケット)、そしてパンプキンパイやチェリーパイなどが数種類など、とにかくテーブルの上は賑やかでした。

 

<サンクスギビングデーに欠かすことのできない料理の一例>

画像参照: "Essential Thanksgiving," The New York Times

 

そんなテーブルの真ん中に堂々と存在感を表していたのはTurkey(ターキー:七面鳥)の丸焼きでした。皆が食卓に着き、お祈りや乾杯をしたのち、家の主(通常はお父さん)が皆の為七面鳥を切る役を受け持ちます。七面鳥には白いお肉の部分と茶色い(赤)部分があり、茶色の方が脂肪分が多くしっとりとしているのに対し、白いお肉はとても淡白な触感があります。そのため、七面鳥のお肉にはgravy sauce(グレービーソース)という七面鳥を焼いた際出てくる肉汁と油に小麦粉や片栗粉を混ぜ、とろみを出したソースをかけたり、甘酸っぱいクランベリー(ツルコケモモ)のソースやジャムやstuffing(スタッフィング:七面鳥の中にパン切れや根菜、内臓などを入れてオーブンの中で同時に調理する一品)と一緒に食べます。それはそれでとても美味しいのですが、気を使ってフォーマルな場所で食べる七面鳥より、次の日に残ったお肉を他の具材と一緒にターキーサンドウィッチやターキースープとして食べるのが私にとって至福の時なのです。考えるだけでもよだれが出てきました…。

画像参照: "Good Eats Roast Turkey" Food Network

 

そして子供の頃、必ず他の子供たちと取り合いになったのが七面鳥のwishbone(ウィッシュボーン)でした。ウィッシュボーンとは鳥類の首と胸肉の間あたりにある鎖骨部分で、ローマ時代から持っているだけで幸運をもたらすと言われていました。いつの頃からか夢を叶えたい二人がそれぞれ骨の端を持ち、夢を心の中で唱えながら骨を割るように引っ張り、より大きな骨のかけらを持った人の願い事が叶うという言い伝えがヨーロッパでできたとか。それを北アメリカに移住した移民がそのまま伝統として持ち込み、広がったそうです。あまり大きなかけらを割った記憶はありませんが、ウィッシュボーンを持つことが楽しみの一つだったのは確かです。

左上画像参照: "Merrythought" Plimoth Plantation

右上画像参照: "What's A Wishbone, and Why Do We Crack It?" TheKitchn.com

 

そして今でも無性に食べたくなるのがパンプキンパイにチェリーパイ、ピカンパイ、などなどのパイ類。種類は無数ですが、サンクスギビングに出てくるパイは色々なシナモンやクミンなどのスパイスが効いていて、味に奥深さがあります。少しずつアイスクリームと一緒に食べるのが最高だと思います。

画像参照: "Brandied Pumpkin Pie" The New York Times

 

成人してからも色々な形でサンクスギビングデーを楽しみました。上司や複数の友人たちがそれぞれ開くパーティーが同日・連日行われます。最初はどれを選択すればよいのか困ったのですが、知り合いに聞くと「全部行けばよいのよ」とのこと。長居せず、ある程度その場にいる人と良い会話ができたら、次のパーティーへと移動するのです。結構忙しいですが、違うタイプのパーティーに行けた上、新しい方たちとの出会いもあったのでそれぞれおもしろかったです。呼ばれるパーティーが多いほど、持参すべき一品や飲み物の数が増えることを心がければ特に問題はありませんでした。近年は七面鳥を焼くのが面倒な方や(大きい鳥をオーブンで焼くのに6~8時間かかるため)、ベジタリアンが七面鳥に変わる他のメインディッシュを準備してました。まさに十人十色です。

 

<サンクスギビングデーのレシピ色々>

参照:"Thanksgiving for All: Build A Feast to Feed Everyone" The New York Times

 

そしてサンクスギビングデーを迎えたら、クリスマスがあっという間にやってきて、そして気がつけば新年を迎えている。社交タイムの連続で、仕事なんてほとんどこの時期から手がつかなくなる傾向にありました。日本ではなかなか考えられないですね。

 

このように、サンクスギビングデーから始まる1年間の残りの期間は友人達や家族、大切な人との時間を楽しむ日々なのです。そしてサンクスという言葉からもわかるように、サンクスギビングデーは自分が最も感謝していることを仲間で分かち合い、人と人との絆を深められる素敵な祝日です。この時期になると、多くのアメリカ在住の方は上機嫌で心が寛大になっています。

 

日本は一般のお家ではお正月に親戚やご近所の方、友人が集まり、おせち料理などを一緒に楽しむのとサンクスギビングデーは同じような感覚だと思います。三郷の人がごへいもちやキノコ汁をソールフードだというように、この時期に私にとって忘れられない味は醤油ベースの和食ではなく、七面鳥と肉汁ソースや甘いスパイスの効いたパイなのです。

 

 

-----参照サイト-----

1. "感謝祭" https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9F%E8%AC%9D%E7%A5%AD

 

**15世紀にコロンブスが北アメリカに上陸したことにより、コロンブスの団体と対面したアメリカン・インディアンはコロンブスらが持ってきたイギリスの病原菌に対する免疫力がないため、その年多くが亡くなってしまったそうです。そのため1621年の感謝祭は実際あったのかどうかという議論があったり、またアメリカン・インディアン達は感謝祭を境にどんどん自分たちの土地や知識をヨーロッパからの移民たちに奪われ続けられたため、今でも感謝祭の日は「哀悼の日」とし、1621年に移民が移住してきた丘の方面を見ながらデモを行う団体があるそうです。

 

 

 

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