こんにちは、三郷町ふるさと活性化協力隊のmeganeです。
先週末は恵那峡ハーフマラソンが雨の中開催されました。参加者の皆様、完走お疲れ様でした!スタート前のクリスタルパークスケート場は参加者の車とシャトルバスで大変賑わっていました。その反面、三郷町のいろいろな道がコースに指定されていたため一定の時間中道は閉鎖され、地元の方はちょっと不便と感じたかと思われます。それでもハーフマラソン参加者の感想を読んでみると、雨の中道端に立っていた地元のボランティアからのあたたかな声援や掛け声が嬉しかったと書かれており恵那市のおもてなしの心は素敵だと感心しました。
さて、前回のエントリーに続き今回は現代アートが中心となったまちづくりの場所、香川県直島に焦点を当てたいと思います。
直島
直島は香川県の北にあり、どちらかといえば岡山圏内に入っていてもおかしくないほど岡山県に近い、香川県の大小27ある直島町の離島の一つです。(下の地図で赤く囲まれているエリアです)高松市から1日9本毎1時間にフェリーが運航しており、50分程船から見える海や離島の景色を楽しむと直島に到着です。前回も書きましたが、本来ならば瀬戸内海の青い海と青い空、そしてぷかぷかと浮かんで見える緑の離島が見えるはずだったのですが、この旅行中はあいにくの雨模様で現実は黒い雲が島々を覆い、窓に雨が叩きつけるような強さで視界は閉ざされ、不気味な景色がしばらく続きました。島に到着するにあたり次第に黒雲は曇り雲に変わり雨も一時的にあがり、港周辺は明るい光に包まれるような雰囲気で我々のフェリーを迎え入れてくれました。文字にするととてもドラマチックなイントロですね。
直島の北部に位置する三菱マテリアルが100年近く銅を中心に金属を製錬し元々ある水産業と共に島民の生活を支えていましたが、1960年代の人口約7800人の全盛期から徐々に高齢化と人口減少により島の過疎化が進んでいきました。(2015年現在は人口約3200人弱)
(資料:直島町観光協会)
直島グランドデザインと3人の男
直島について調べていてまず驚いたのは、直島町が過疎化を避けられなくなると感じた頃から1995年まで36年間町長を務めた三宅親連(ちかつぐ)氏が1960年に描いた直島のグランドデザインが以後直島だけでなく香川県の観光振興・経済に大きく影響することになり、そして現在も三宅氏の方針が直島のまちづくりの中核にあるということでした。以下に記載されているのは三宅氏のグランドデザインの概要です:
「直島の北部は既存の直島製錬所を核として関連諸産業のより一層の振興をはかり、町経済の基盤とする。中央部は教育と文化の香り高い住民生活の場。南部は瀬戸内海国立公園エリアを中心に自然景観と歴史的な文化遺産を保存しながら、観光事業に活用することで町の産業の柱にしたい」
『直島町史』より
直島の南部を自然景観が満喫できる文化的な観光地として開発していきたいという三宅氏の思いは岡山に本社がある(株)福武書店(現(株)ベネッセホールディングス)創業社長福武哲彦氏(現会長)が描いていた「瀬戸内海の島に世界中の子供たちが集えるようなキャンプ場を作りたい」という夢とシンクロすることで福武氏の直島訪問、直島南部開発につながりました。1980年代後半にベネッセは直島南部約165haの土地を購入し、最初に直島国際キャンプ場を建てました。キャンプ場を設計したのが世界的に名の知られている建築家安藤忠雄氏で、キャンプ場に屋外常設の現代アート彫刻が設置されたのが芸術という種が蒔かれた瞬間でした。ここから3人のビジョンと熱意が統合し、巨大芸術プロジェクトが白熱していきます。
島民と現代アートの関わり
1990年代前半には現代美術館とホテルが統合されたベネッセハウスが建設され、そのあとに「OUT OF BOUNDS」という現代アートを美術館外に出した展示を試みることによりサイトスペシフィック・アートの基盤ができあがります。しかし当初は島民の生活からはとてもかけ離れた現代アート、そして島民が生活を送る場所から離れた南部での芸術活動は他人行事の企業事業でした。ベネッセは島民の理解を得るため島民の美術館入場料を無料にしたり、サイトスペシフィック・アートを芸術家に依頼する際島民に製作過程に参加してもらい、芸術家と現代アートが島民にとって身近な存在になっていきました。その過程中サイトスペシフィック・アートの試みは美術館敷地内だけでなく、島民が生活し島の歴史や文化がある本村に点々とあった空き家や空き地などで製作されるようになりました。(家プロジェクト)
その後は活動が島全体に存在する場所で行われるようになり、現代アートは島民に徐々に受け入れられるようになりました。昔から親しんでいた建物が芸術に変わり再生される過程や、自主的にアートイベントでボランティアする、そして直島観光協会と自治会がサイトスペシフィック・アートである温泉施設(I♡湯)を(財)直島福武美術館財団から無料で譲り受け、地元の方で運営するなど芸術が島民の生活の一部として認められるまでになりました。2005年にSANAA設計事務所による町の公共施設、海の駅「なおしま」が開館し、それに伴い町民が運営するカフェや観光ガイド団体、特産品開発、自転車貸し出し、宿泊施設や飲食店など次々と地元の方によるローカルビジネスが生まれました。
その他にも現代アートに刺激を受け地元の島民も自主的に自分たちでできる生活アートなどを街中で実施されるようになりました(屋号プロジェクト、のれんプロジェクト、生け花アート、古民家ギャラリーなど)。実際に家プロジェクトがある本村を散策していると、「見てください!」といわんばかりにいくつもの門先からお庭まで続く植物達は開かれた門が額のように自然の美しさを放ち、道を歩いている人達の目を次々ととらえていました。
(資料:直島町観光協会)
更なる飛躍
2004年には建築物が文字通り地中にある地中美術館がオープンし、安藤氏の設計と館内で展示されている4つの作品が世界的に知れ渡るようになり、地中美術館を中心に直島全体をフル活用したサイトスペシフィックな直島アートプロジェクトが世界的に人気スポットとなりました。
(写真:ベネッセアートサイト直島)
2008年からは直島以外の島でも現代アートムーブメントが起こり、岡山県犬島をはじめ豊島などにも芸術家や建築家を呼び、その土地を応用したサイトスペシフィックな作品を次々と製作していきました。その流れで遂に2010年瀬戸内国際芸術祭(通称瀬戸芸、Art Setouchi Triennale)が開催され、イタリア・ベネチア国際芸術祭(Venezia Biennale)の様に数々の離島に点在している現代アートを船を使い移動しながら自然や瀬戸内の景観を楽しみ、そして芸術に携わる体験を実現させました。ベネチア芸術祭は2年おきに芸術作品と建築パヴィリオンが交互に展示されますが、瀬戸芸では3年おきに芸術と建築作品が同時に開催されます。この国際芸術祭は香川県に設置された瀬戸内国際芸術祭実行委員会が主導し、県内の自治体や企業が関わっています。下の地図は瀬戸芸の現場となる島々を紹介しています。地図を見るだけでもワクワクしてしまいます!
(資料:瀬戸内国際芸術祭実行委員会事務局)
地中美術館ができるまでは例年観光客数は5万人だったのに対し、2004年地中美術館開館以降観光客数はグラフにショックが与えられたくらい急激な増加があり、それからも増加傾向が続いています。2011年には人口3,200人の島に美術や建築好きが国内外から約400,000人訪れるまでになりました。人口の100倍以上の観光客とはものすごいです。(下のグラフはH20(2008)までの情報ですが参考まで)
資料に目を通して残念だなと思ったのは、この現代アートムーブメントの元となる、福武氏の夢だった子供たちのための直島国際キャンプ場は長らく利用者が低迷しており、2006年に閉鎖されていたことでした。
瀬戸内国際芸術祭以外にも日本各地には自然と地元にしかない資源を利用し、それと芸術を融合した芸術祭が沢山開催されています。どれもコンセプトが面白く、旅行や芸術・建築に興味がある方にとってはとても魅力あるイベントだと思います。また、今回は直島の現代アートと島民に焦点をあてましたが、きっと他の芸術祭にも地元の人がどのように芸術と接し、大きくまちづくりに貢献しているのかという裏話は沢山あることでしょう。気になる芸術祭をリストアップしてみました:
別府現代芸術フェスティバル(大分)
水と土の芸術祭(新潟)
大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ(新潟)
道のおくの芸術祭 山形ビエンナーレ(山形)
遠い昔ベネチア・ビエンナーレに行ったことがありましたが、観光客数ピークな時期でとても混み合い、いかにも芸術スノブでツンケンしている人が多かったので、人が大勢いる場所が苦手とする私には忙しく息苦しい思い出が良い思い出より強く残りました。それ以来あまり芸術祭というものには近づかなくなっていました。今回は芸術祭ではありませんが、季節外れの直島はとてもゆったりとしている上観光客は以外に少なく、雨の中とてもしっとりとした島の良さがあり自然を堪能ことができました。本当は2泊3日ほど時間をかけてじっくりと島を回るべきですが、大人の事情でフェリーで高松に戻るまでの5時間を最大限に動き直島を体感してきました。本調子じゃない時の雨の中の自転車移動は想像以上に体力的に堪えましたが、それがかえって忘れられない思い出になりました。次回訪れるときは晴れた時にじっくりと日の動きで変化する現代アートの雰囲気を楽しみたいとおもいます。
通常船に乗ることがない人たちにとって島に出かけるという行為自体が現実から離れる雰囲気満載なのですが、飾りっ気のない自然豊かな田舎の島々の中に現代アートが町や景観に馴染んだ建物の外観の中に隠れながらも盛り込まれている風景、そしてその場所を歩いて体験することはまさに非現実的な異次元の世界だと高松港へ戻るフェリーの中で感じました。高松から岡山、岡山から名古屋へと移動し、帰路が短くなるにつれ現実に戻らなければならない悲しさは増し、ついに旅の終わりを迎えました。
おさらい
参考:
ベネッセアートサイト直島
国土省 香川県直島町 NPO法人 直島町観光協会
国土省 香川せとうちアート観光圏
国土省 伝統的お遍路文化を活用した風景づくり方策の実践的検討調査
笠原 良二 現代アートがもたらした島の誇りとアイデンティティー ~香川県直島~